生涯最高到達地、3026Mに登る――長野県 乗鞍岳山行記
乗鞍岳最高峰・剣ケ峰への道★拡大写真あり 雪渓と雪解け水の織りなす神秘のブルー★拡大写真あり


●脅威のバスロードで一気に2700M地点へ

 乗鞍岳は長野県と岐阜県の県境に位置する。標高3000M以上でありながら、2700Mまで車道で上がれるという「手軽な」山として有名だ。
 2005年7月17日飛騨・高山まで車で行き、市内散策と宿泊。18日朝にほおのき平スキー場まで車で行き、駐車場に停めバスに乗り換える。乗鞍は、かつてはマイカーで乗り入れる山だったが、渋滞や高山植物の荒廃やライチョウなどへの悪影響があり、今ではマイカー乗り入れを規制している。その代わり、スキー場を利用して無料駐車場を設営、バスを運行させている。
 ヨーロッパ的なやり方というべきか、正解だと思う。何事も自由がいいのかというとそうでもなく、マイカーで乗り入れる「自由」は貴重な自然に快適に接する「自由」を抑圧する。小さな「自由」を規制することによって、より大きな「自由」が実現する好例であろう。
 このバスはなかなか凄い。標高差1500Mを一気に上る。ハードなバス行程のため全員座れるように手配され、ちょうど私の前で満席になって次の便にまわされたが、増発の案内が適確で腹は立たなかった。料金は往復1800円。
 車窓の景色が、針葉樹林からハイマツ林、やがて森林限界を超え、残雪を伴う累々とした岩肌に移っていく。天気は快晴、笠ケ岳、穂高の峰々、槍ヶ岳の特徴的な山頂もバスから見ることが出来た。
 約40分余りで標高2700Mの畳平に到着。この高さのバス停はもちろん他にない。何軒かの土産物屋、山小屋、神社、バスセンターなどがあり、観光客も多く、ここが山岳であるとは思えない。しかし、すぐその横には火口湖や岩山、高山植物のお花畑がある、不思議な光景。
 最高峰を目指す前に、畳平の北に見えている魔王岳山頂へ60Mほど上った。目の前に見えているのに、登ると結構息が切れた。
ほおのき平:駐車場とバス停がある 魔王岳より剣ケ峰方面を望む 魔王岳山頂:2764M



●雪渓とお花畑

 魔王岳から駐車場に戻り、お花畑の中の木道を通って山頂へ向かう。遠近感を失うような広大な景色が圧巻。人工物がなく天気もいいのですぐ近くに見えるが、歩いていくとずいぶん遠い。
 お花畑から斜面を登ると、雪渓が雪解け水をたたえていた。不消池というこの水は、駐車場周辺施設の水源になっているらしく、人口の石積みで小さなダムが堰き止められている。水の底に雪の塊が没し、濃いブルー、明るいブルー、白い雪の神秘的なグラデーションに見とれた。
 右手の摩利支天岳に乗鞍岳コロナ観測所が見える。峠を越えると、眼下の斜面に大雪渓があり、スキーを楽しむ人達が点のように見える。道は肩の小屋に向かって降りていき、そこから山頂に向かってガレ場の斜面を登っていく。
 
畳平・鶴ケ池 お花畑 雪渓と雪解け水、手前はハイマツと高山植物

       


●間近に見えて、予想より苦しかった山頂

 山歩き会に参加して数年経ち、少なくとも毎月一回は歩いたり登ったりしているはずなのに、このところ体力の減退が著しい。登り斜面は浮石だらけのガレ場で、足元も不安定。途中何度も息を整えるために立ち止まった。日差しはきついが、風があるので暑さは感じなかった。
 山頂付近に来ると、権現池が見えた。この乗鞍という山は巨大な火山であったものが山頂が爆発し、残ったギザギザが剣ケ峰や摩利支天岳などの峰をつくり、火口跡に水が溜まったものが池となった。岩峰の側面を吹き上がる風が、細かい雲を作り出していた。
 下から見ている限りは細くて危険かとも思えた山頂近くの尾根は、実際に上がると歩く幅は十分にあり危険な道ではなかった。しかし、天候が悪くなり霧でも出てルートを失うと命にかかわるかも知れない。
 最後の頑張りで山頂に到達。畳平から二時間かかった。山頂には乗鞍本宮の祠がある。手軽な山ということで子供連れの姿もある。標識には「三〇二六M」とあった。360度の展望、雄大さを実感した。この瞬間、自分の中の何かが変わった。

      
大雪渓を見下ろす:小さな点はスキーの人々 不消池を振り返る:奥は畳平 乗鞍コロナ観測所:剣ケ峰山頂付近より

      
剣ケ峰山頂より権現池を望む 剣が峰山頂:3026M 山頂の三角点:石で押さえている

 
●上弦の虹

 山頂からの下りは楽だった。肩の小屋で「フキノトウの天ぷらうどん」を食べた。
 不消池の横に戻ってきた時、虹が現れた。なぜか円弧が逆向きで、上弦の月ならぬ上弦の虹だった。
 帰りはバスでほおのき平まで行き、車に乗り換えて平湯を通って新穂高温泉に。入浴料は「200円程度の寸志」という河原の無人露天風呂に入った。ただし、この露天風呂は天然湧出ながら温度が下がってきているらしく、夏場以外はぬるすぎるだろうと思えた。橋の上から丸見えということもあり、ホテルの露天風呂を利用するほうがお勧め。
 帰路は高山からずっと高速でつながっているが、連休ということもあり二箇所で大渋滞、帰宅が午後11時半になってしまった。

      
1時半に現れた虹:なぜか円弧が逆 新穂高の渓流 新穂高温泉露天風呂