絶好の季節に本州最後の県を走る――山形県、蔵王・山寺・最上川
●樹齢1200年!久保桜の荘厳

 2005年五月の連休は、本州最後に残された未踏の地、山形県に足を踏み入れることを主目的に、一人旅ならではのハードスケジュールで旅をした。私に与えられた休日は3日〜5日の三日間。2日と6日に有休を取ることも考えたがいずれも会議日程が入ってしまい休みは増えず。
 2日の夜に車で出発、富山まで走って荒磯海Pで車中泊。山形県に入ったのは5月3日の昼前。小国町で名産のとろろ蕎麦を食べ、長井市の桜回廊に立寄る。天気は快晴、広々とした田畑、周囲の山並みには残雪が残る。農家の庭先に整えられた芝桜がまぶしいぐらいに鮮やか。一年で最高の季節に最良の地に来た印象がする。
 やがて桜回廊のハイライト、久保桜に着く。畑の中、学校に隣接して、樹齢1200年の桜が咲いていた。桜というよりガジュマルのような太い幹。老木を支える無数の支柱が痛々しくも荘厳。名所ではあるが駐車場も入場料も無料。
 ただ残念なことに、デジカメの設定レバーが知らない間にずれてしまっていたらしく、ここで撮った写真のピントや発色が悪い。次の蔵王から後は気がついて直したので撮影状態は回復する。  

 
樹齢1200年の久保桜(左)   太い幹と巨大な桜花(中) のどかな景色の中の桜回廊(右)


       

● 蔵王温泉・渓谷の大露天風呂に入り、湯の花を大量購入

 長井市から東へ行くと赤湯温泉に至る。山形は、全ての市町村に天然温泉があるという温泉地帯。赤湯は通り過ぎて、私が目指したのはスキー場で有名な蔵王の中腹にある蔵王温泉。曲がりくねった道路を登っていくと、次第に周囲が荒涼として火山性の土地になっていく。その斜面の中腹に蔵王温泉の街並みがあり、温泉宿や土産物屋がひしめきあっている。午後三時到着。今回の旅は渋滞知らずだったが、ここの大露天風呂へ行く細い道だけは混んだ。歩いて上がるには遠く、駐車場の入れ替え待ちに時間がかかった。
 大露天風呂は、自然の谷を利用した野趣あふれるもの。谷にかかる橋からは男湯が俯瞰できるが、女湯は建物の奥にあり、見えないようになっている。温泉は、草津に似た硫黄の入った強酸性の湯で、皮膚の殺菌効果が高い。天候も青空で、実に開放的な温泉が気持ちいい。脱衣場は谷の岩の上につくられた木製の小屋で、床はスノコ状になっていて川床が見える。隣の人がロッカーに入れる100円を誤って床に落とすと、そのまま谷の岩へと落ち、取りに行くことができない構造になっている。おそらく、そんなふうに硬貨を落とす人は何人もいるんだろうと想像できた。
 ZAOセンタープラザで土産を物色。結果的には後々回ったどこの場所よりもこの蔵王の店の土産物のセンスが良かった。草津温泉で仕入れた湯の花がすでになくなっていたのでここで並べられていた5袋を買い(一袋500円)、さらに店員さんに在庫を出してもらって計10袋を買う。名物のジェラードは二種類のテイストを組み合わせる仕組み。私は「米」と「ワイン」を組み合わせたがどちらの味も良かった。特に米のジェラードは、製法がよくわからないが、米の粒子感もあり、もちもち感もあり、天然の甘みもあり、とても美味しかったのでお勧め。蔵王でなくても都会でもブームになりそうな気がする。
蔵王温泉大露天風呂の入口(左) 橋から谷筋にある温泉(男湯)を見たところ(中) 蔵王のスキー場を利用した駐車場、空が青い!(右)

       


●“しづかさや 岩にしみいる 蝉の声”

 午後4時に蔵王を出て5時半に米沢市着。予約していた東横インにチェックイン。上杉謙信をまつる上杉神社まで歩き、米沢牛のステーキ丼で夕食。酒を飲もうと居酒屋のようなところを探したが、午後8時台というのに街は街灯も少なく真っ暗で人通りも少なく、うろうろする雰囲気でもない。米沢駅前まで戻り、米沢ラーメンを食べて寝る。
 翌朝、立石寺(山寺)に向かう。午前九時に着。力こんにゃく(山形ではあちこちで売られているもので、玉こんにゃくを串にさして煮たもの)を買い、食べながら行くのがスタンダード。立石寺の門をくぐり、石段を一歩一歩登る。この一段一段には意味があり、とばしてはならないらしい。
 斜面を登り、五大堂に至る。急な角度の崖の上につくられていて、高さを感じる。芭蕉の有名な句「しづかさや 岩に染み入る 蝉の声」はこの地での作。眼下をJRの鉄路が通っていて、電車が往くと鉄橋を響かせる音がこの高さまで聞こえてくる。芭蕉の句は、おそらく下界の林で鳴いている蝉の声が聴こえてきて、この高さの険しい岩肌にしみ込んでいくような様子を描写したのではないかと想像した。
      
 そそり立つ岩の上の納経堂  納経堂の右が五大堂  五大堂より本堂を見る  五大堂から見下ろす景色


●“五月雨を 集めて早し 最上川”

 山寺の後、天童市・尾花沢市を抜けて最上川下りに入る。芭蕉の句に詠まれただけあって、水量が豊か。対岸の山の斜面は広葉樹が多く、紅葉時期は鮮やかな景色になっているであろうことが推測できる。
 白糸の滝を過ぎ、川くだりの船着場を兼ねたレストランで昼食を摂る。この後、酒田市に出て、象潟に向かったがこの続きは秋田県のページで。酒田では、「おしん」にも登場した山居倉庫を見る。隣の鶴岡では芭蕉乗船の地の碑を探したが、すっかり周囲は宵闇に包まれていた。
 5月4日の夜は、温海温泉など日本海側の道をひた走る。鼠ヶ関跡で車を止め、民家の隣にある碑を見る。海は暗黒の中に波の音だけを響かせていた。
      
 最上川・乗船の地に立つ芭蕉像  五月雨を集めて早し最上川  酒田の山居倉庫  酒田の日和山公園に再現された千石船